3ヶ月が経過した月のはじめ。都合4回目の身体測定。
男はどきどきしながら測定器に乗った。果たして結果はどう出るだろうか。
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測定の結果、ここ1ヶ月の体重減は2kgだった。減少量としては3.5kgあった先月よりかなり少ない。
しかし、その内容は全て脂肪分の減少であった。
なんと、先月の筋肉量は全て維持されていたのである。
男は歓喜した。
己の考えた食生活と運動方法が間違っていなかった証明だったからだ。
脂肪だけが減ったことにより、体脂肪「率」としての減少幅は先月より大きかった。
「よし、このままのメニューでもう少し頑張るか!」
男は拳を握り締めた。
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この4ヶ月目に入ったあたりから、男の見た目の体型に変化が現れはじめた。
上半身が細めなのは相変わらずだったが、腹部が変りつつあった。
丸かった腹の前部左右の肉が減ってきたような気がする。
輪切りにして考えたとき、両脇とヘソで三角形ができるような感じに変っている。
そしてその中間には小さなエクボができつつあった。
ヘソ下にはまだまだたっぷりと肉があり、たぷんたぷんと波打ってはいたが、この小さな変化は男の心を燃え立たせた。
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体型以外にもいろいろな変化がおきた。
そしてそれは必ずしも良い事ばかりではなかった。
まずは便秘だった。
もともと便通が良いとは言えない男だったが、それが更に悪くなっていた。
2日に一度が3日に一度になった。
1週間に2回のみということさえあった。
これが原因で体調が崩れるような事はなかったが、やはり気持ちが悪かった。
調べると、摂取カロリーが減り、体が飢餓状態になるとこういった現象が起きるという。
食事が減った分、体ができるだけ栄養素を取り込もうとし、結果便が少量・固くなるらしい。
どうやら、ダイエットの悪影響の一つと言ってよさそうだった。
しかし、ようやく結果があらわれてきたところである。
男に今の生活を変える気は毛頭なかった。
考えた挙句、男は薬に頼ってみる事にした。
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丁度その頃、評判になっていた漢方薬があった。便通が良くなるとの噂だった。
「体内脂肪を落とします」という能書きで有名になった薬だったが、男はそれを鵜呑みにしてはいなかった。
いや、「鵜呑みに」ではなく「あてには」だろうか。
「脂肪を減らすのはあくまでも食事と運動で」と思っていた男。
薬の効能としては、単に「出れば」よかったのだ。
普段薬を飲む習慣がなかったせいかこの薬はよく効いた。便通は以前と変らなくなった。
ただ、何時までも飲み続けるつもりはない。
男は様子を見ながら薬の量を減らしていこうと考えていた。
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次に訪れたのは停滞期だった。
月に一度の身体測定とは別に、ジムへ行く度体重を測るようになっていた男。
その値に一喜一憂していたのたが、ある時突然、体重の変動が止まってしまった。
微妙な上下を繰り返しながらじわりじわりと減っていた体重。
それがぴたりと一定になってしまったのだ。
男は慌てた。
食生活も運動量も変えてはいない。
減り具合が次第に少なくなるならわかるが、突然止まってしまったのは何故なのだろう?
試しにと、運動量を増やしてみたがダメだった。
ジムへ行く回数を増やしてもダメ、食事の量を更に減らしてもダメ。
体重は2週間微動だにしなかった。
男は悩んだ。
体調は悪くない。
先の薬で便通も戻った。寝不足や過度のストレスもない。
それどころか、今の体は非常に快調と言ってよかった。
「調子が良いのに体重が落ちないのは何故なのだろう?」
その停滞していた体重が動いたのは、ほんのささいなきっかけが原因だった。
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突如仕事が忙しくなり、丸一週間ジムへ行く事ができなかった男。
加えて仕事上の宴会が続き、3日間ほど食べ過ぎてしまった。
男は慌てた。
「これでは体重が減るどころか増えてしまったに違いない!」
次回、ジムで計った体重は、確かに1kg以上増えていた。
しかし、同時に停滞期も終わっていたのだ。
翌日からまた順調に体重が減り始めた。
増えた1kg分はわずか3日で解消、その後は以前のペースで減っていった。
理由はわからないが、体重を減らしていくとどこかで一度行き詰るポイントがある。
これは、体重(もしくは摂取カロリー)の減少に危機感を持った「体」が、拮抗をとろうとエネルギーの消費量を減らす為らしい。
そしてそれを乗り超えるには、「体」に「減っても大丈夫なんだよ」と安心感を与える刺激が必要。その為には(逆説的だが)一時的に食べ過ぎてみるのも良いらしい。
男はまた一つ新しい知識を得たようだった。
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