いつの間にか秋は過ぎ、季節は冬になっていた。
男が「痩せよう!」と決心してから半年が経過していた。
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この半年で、体重は14kg減り68kgとなっていた。
体脂肪率は10%減り18%となっていた。
もはや男は「肥満」ではなかった。
今月の測定結果表のキャプションは「体格は普通です、このままの生活を続けましょう」だった。
男は喜んだ。
身長170cmの標準体重まではまだ5kg程オーバーしていたが、今くらいが丁度良いのではないか?と考えていた。
さすがに今の年齢で、学生時代と同様の体重がベストだとは思えなかったからだ。
「少し余裕のあるほうが健康にもいいはずだしな」
減ったとはいえ、まだまだつまめるだけの脂肪が残る下腹を見ながら男は呟くのだった。
「それにしても…」男は考えた。
痩せて体重が減ったのは確かに嬉しい。
しかしそれ以外に得られたものもまた大きかった。
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まず、飯が美味かった。
これまでが不味かったというわけではないが、食べる総量が減った分、一回の食事の大切さを感じるようになった。
ゆっくりと味わって食べるようになり、素材のうまみをより感じるようになった。
外食でのメニューの選び方も変った。
一番カロリーの低いものを選ぶようになった……わけではない。
もちろんカロリーも意識はしたが、それ以上に「今一番食べたいもの」「美味く感じるもの」を選ぶようになった。
貴重な食事の機会を無駄にしたくなかったからだ。
そして、きちんとした食事を重要視した結果、スナック菓子やファーストフードで誤魔化す事はほとんどなくなっていた。
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酒もより旨く感じるようになった。
一度仕事関係以外は禁酒としたが、その後自宅で週末の夜だけ解禁。だが「気が向いた時」だけだったので飲む回数はごくわずかだった。
ストックした酒は一向に減らず、結果、ちょい高い酒も買いおきできるようになった。
高い酒は旨い。
旨いがもったいないので、貧乏性の男が一回に飲む量は更に減った。
弊害もあった。酔い易くなったのである。
これまで酒の強さには少々自信のあった男だが、酔いの回りは確実に早くなった。
減量の影響なのか、それとも単に年齢のせいなのかはわからなかったが、久しぶりに参加した宴会でへべれけに酔う男を見て、旧知の人々は怪訝な顔をしていたという。
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普段の生活では、歩く事が苦では無くなっていた。
何しろ会費を払ってジムに行って運動しているのである。無料で動ける機会が苦労であるはずはなかった。
もちろん意味もなく歩いたりまではしなかったが、電車の乗り継ぎ、駅の階段、離れた駐車場等も気にならなくなった。
「運動になるから」という気分的なものもあるのだろうが、それ以上に実際に体が軽くなっている事も大きく影響しているだろう。
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服を選べるようになったのも嬉しかった。
昔からお洒落とは無縁だったが、それでも店頭に並ぶ服を自由に選び、着るられるようになった事を素直に喜んだ。
比較的タイトな服が選べるようになった。
Tシャツ姿でも腹を気にする事がなくなった。
ジーンズやパンツも、サイズだけでなくデザインで選べるようになった。
男が一番嬉しくかつびっくりしたのは、クローゼットの奥から引っ張り出した、学生時代に苦労して買ったブランドシャツを着られることに気づいた時だった。