「ヤベぇぞこれは……」
ゴールデンウィーク過ぎの5月の下旬、空は見事な五月晴れ。
病院の駐車場に停められた自家用車を横に、降り注ぐ陽の光の下立ち尽くしていたのは「青年」というには少々薹が立ちすぎた一人の男だった。
男の手には、今出てきた病院で貰ったばかりの健康診断の結果シート。
ずらずらと並ぶアルファベットにはBやCの文字。注意欄には「脂肪肝の恐れ」の文字があった。
ポリポリと頬を搔きながら晴天の空を見上げる男、その心には空と対照的な暗雲が広がっていた。
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男にも多少の自覚はあった。ここしばらく、酒量が半端ではなかったのだ。
元来酒好きの男だが、これまでは自宅で飲む機会はさほど多くはなかった。
せいぜい週末の寝しなにバーボンをちびちびやる程度。「旨い酒を少量だけ」が常だったのだ。
ところが、1年ほど前から酒量が増えた。
きっかけは仕事のストレス。
忙しい業務、人間関係。ほぼ毎日の飲酒が定着し、遅い夕食時にビール、寝る前にはバーボンが日課となってしまっていた。
悪い事に、男は酒に弱くなかった。
途中で酔いつぶれたり、寝込んだりする事がなかったのも酒量をアップさせる一因だったのだろう。
毎日のように相当量のアルコールが体に吸収されていった。
男の肝臓が不調を訴え始めたのも無理の無い事といえた。
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幸いなことに、肝機能を示す血液検査の数値はまだ黄信号レベルだった。
正常からは逸脱しており要観察ではあるが、「危険」という領域には入っていない。
医者の診断も「これから生活習慣を改めれば大丈夫ですよ」だった。
だが、酒=肝臓以外にも問題があった。いや、むしろそちらの方が重要と言えた。
それは「体重・体脂肪」だった。
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男の身長は170cm。
現代だと小柄に分類されるのだろうが、男の年代だと標準的といえる。
対する体重はなんと82kg。体脂肪率は28%、そしてウエストは90cmオーバー。
完全に「太りすぎ・肥満」だった。
確かに、男は昔から痩せ型ではなかった。
骨太でがっちり体形。それでも学生の頃の体重は62~63kgだったはずだ。
思い出せばその当時、稼いだバイト代は全て趣味につぎ込まれ、食べものに執着する余裕はなかった。
当時は苦労だと思っていたが、今から考えるとそこそこ健全な生活だったのかもしれない。
それから幾年月。いつしか増えた体重は20kg。
長年の事でさほどの自覚症状はなかったが、己の写真を見て「そういえば太ったな……」と思うことがあったのも事実である。
太った原因には件の飲み過ぎの影響があるにちがいない。
しかしその期間を考えると、普段の基本的な生活そのものにも大きな要因がありそうだった。
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増えすぎた体重、血液検査の結果値。
肝硬変、糖尿病、メタボリックシンドローム。
「こりゃぁやっぱりダイエットだよな……」
綺麗な青空をもう一度見上げ、男は一つ大きなため息をついた。
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