その1~決意|レーシック・視力回復物語

決意

男は昔から眼は良くなかった。

いわゆる近視に加えて乱視が少々。
眼鏡を掛けはじめたのは中学生の頃だったと思う。

その後も視力が回復する事はなかった。社会人になってからはコンタクトレンズを併用するようになったが、仕事で眼を使う事もあり、更に悪化したような気がする。

現在の視力は0.1程度。

車の運転を除けば裸眼でも暮らせない事はないが、普通の生活ではかなり「眼を凝らす」必要がある。

男の一番大きな趣味はオートバイだった。

だが眼が悪いと、バイクに乗るにあたりいろいろと面倒な点がある。

眼鏡だとヘルメットの着脱が面倒だ。冬場や雨の時にはレンズに曇りが出る。上目使いだと視界が歪む事もある。

コンタクトレンズだとそういった心配は少ないが、無くした時や急にズレた時の心配が残る。
長時間連続装用できないのも不便だった。

雑誌に「視力回復手術」の広告が載る様になったのは何時頃からだろうか。
著名人・有名人の「手術して良かった!」という手記の類だ。

広告を見かける毎、男は「そりゃぁ視力が上がれば便利だろうけどねぇ」と思った。
だが思いはするもののさほど気には留めなかった。

いや、気に留めなかったというより、「自分には関係ないと思った」というのが正解だろう。何しろ手術代が天文学的だったからだ。

総額は男の給与一か月の手取り金額を余裕で越えるほど。
もちろん健康保険など使えるはずも無く、全額自費・自腹である。

「そんな金があるなら趣味のあれとこれと……」
男がそう考えたのも無理の無いことだろう。

ところがしばらくの後、費用がじわじわとが下がってきた。
給与の手取り金額を下回り、オフシーズンのちょっとした海外旅行ツアーくらいになってきたのだ。

これくらいであれば、男に出せない額ではない。

「ふむ」
男は考えた。
少なくとも海外旅行に行くよりは、眼が良くなる方がメリットは大きいに違いない。

一番のメリットとしては、なにより眼鏡が必要ない。定期的に買い換える必要が無い。
使い捨てのコンタクトレンズを延々と買い続ける必要もない。
サングラスを掛ける為にわざわざコンタクトを付ける必要がない。
コンタクト付けたまま昼寝して、起きた時目の前が真っ白になることもない。
酔って眼鏡を頭に置いたまま、「眼鏡眼鏡…」と探し回る事もない。

「そうか、結構良さそうだな」そう男は考えた。

しかし、手術を受けるには、費用以外にも克服しなければならないものがあった。

それは、「恐怖感」だった。

「眼だよ眼、目の手術だよ?全身麻酔でわけ判らないうちに終わるならまだしも、目薬の麻酔だけで眼を削るんだよ?」

うう、怖い怖い。
「眼を削る」と考えただけで尻の穴がずりずりと上にあがってしまう。
「ま、別に今もそれほど困っているわけではないしな……」

ひょんなことから知人が同様の手術を受けた事を知ったのは少し後の話である。

早速いろいろと聞いてみる。

なるほど、眼鏡(コンタクト)が必要ないというのはやはりそんなに便利なのか。
「簡単」が売りの手術だがいろいろ面倒なことはあるのか。
そしてやっぱり……受けるまでは怖いのか。

それでも話を聞くうち、なんとなく手術を受けてもいい気になってきた自分に気づく男。

「よし、このハイな気分の消えないうちに、検査だけでも申し込んでみるか!」

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