その4~手術当日夜|レーシック・視力回復物語

手術当日夜

受付でもう一度説明を受け、病院を出た男。

「う~む、まだ手術が終ってから30分ちょいしか経っていないんだがな。いいんだろうか、こんなに簡単に帰れてしまって……」

眼には貰った保護眼鏡をかけている。横にはガードが付き、工事現場で使うような雰囲気もある眼鏡だ。
今日明日はこれをつけてホコリから眼を守らねばならない。

「それにしても……」男は考えた。

この保護眼鏡(度無し)でもいつもの眼鏡と同じくらい見えるのが凄い。
少し視界が滲むような気もするが、普通に歩くのに不都合は無い。
いや、不都合はないどころか、このままでも充分な視力のような気さえする。

男は駅へと足を向けた。

今夜は東京に宿を取ってある。
時間的には自宅まで帰れないこともないのだが、翌日検診があるので明日また来なければならない。
それが面倒だったので近くの安ホテルを予約しておいたのだ。

そして、これは結果的に大正解だった。

電車移動。1駅離れたホテルへ向かう途中、眼が痛んできた。

いや、「痛い」というのとはちょっと違う。これまた「なにか気持ち悪い」という方が正解だろう。

違和感というか異物感というか。おそらく麻酔が切れてきたのだろう。

ドクターからは「今日は絶対眼には触らない事、そして眼を乾かさない事」と念をおされている。

だが、ホコリだらけの人混みの中、目薬を点すわけにはいかない。
男は呻いた。「うう、気持ち悪い……ベッドに横になりたい……」

ようやく到着したホテルのチェックイン時に、男がいささか不機嫌だったのは仕方ないところだろう。

部屋へと入り、早速点眼する。
多少楽になって、ようやく男はホっとした。

今はまだ夕方というにも早い時間だ。
今日はこれから寝るまで、1時間おきに3種類の目薬を差さなければならない。
しかも、早い時間に寝てしまうわけにもいかない。
休憩の時同様、寝ると涙の量が減ってしまうからだ。

それから約3時間(手術からだと4時間弱)は結構辛かった。

「気持ち悪い気持ち悪い……」と部屋内をうろうろする。
寝てはいけないし、眼を疲れさせるのでTVも読書も禁止。する事が無かったのだ。

別途痛み止めの目薬も貰ってはいたのだが、「痛いというのとは違うよな」と思い使わなかったのがいけなかったのかもしれない。
「とっとと痛み止めを点しておけば良かったんだよな」男は後にそう考えた。

夜、急に眼が楽になった。
違和感は残るものの、例の気持ち悪さがすっぱりと消えた。

「へぇ、こんなに急に楽になるんだ……」

驚きながら、男は部屋の窓から東京の夜景を眺めてみた。
遠くのビルの広告がはっきりと見える。
煌々と輝く照明の周囲はボヤけるが、違和感はさほどない。
気が落ち着いたせいもあってか、手術後より更に視力が上がった気がした。

「こりゃ凄いな」と呟きながら保護眼鏡をかけなおし、男はコンビニまで飯の買い出しにと出かけてみる。

景色はやはり綺麗に見える。もちろん歩き回るのに不便はなし。

ホテルの周囲は飲み屋街で焼き鳥屋からは良い匂いが漂ってきたが、もちろんしばらくはアルコールは禁止。おとなしくコンビニ弁当を買い、ホテルまで戻る男だった。

深夜。手術から8時間が経過し、そろそろ大丈夫だろうと寝る準備に入る。

寝る時には、保護眼鏡の代わりとして、両目の周りにプラスチックのガードをテープで貼るのだ。
これは寝ている途中、無意識に眼をこすると大変だからである。
これから一週間、夜はこのガードを貼り続けなくてはならない。

それでは就寝……とはいうものの、手術の興奮もあってそう簡単に眠れるものではない。

ベッドの中でごそごそと動く。

ドクターの「眼を乾かさないように」の言葉が頭に残り、一度ガードを外して点眼する。

「そうだ、朝起きた時の点眼も忘れないようにしないとな……」

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