こうして、遅ればせではあるが食生活の改善をはじめた男。
しかし、それだけでは不安が残る。
同時に見直そうと考えたのが、ジムでのトレーニング方法だった。
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「体重を落とすには低負荷での長時間運動が適している」と教えられたのは最初の測定の時だった。
これはいわゆる「有酸素運動」だ。
相反するのが「短時間に強い負荷をかけて行う運動」、いわゆる筋力トレーニングだった。
先のエアロバイクやトレッドミルは有酸素運動に該当する。
有酸素運動は体内の脂肪を燃焼するのに良いらしかった。
心拍数が120~140回/分くらい(年齢によって異なる)をキープしたまま長時間体を動かす事で、その効果が大きくなるらしい。
時間的には「有酸素運動は20分以上続けて行いましょう」というのが定説のようだった。
もちろん20分未満では意味がないわけではなく、長時間動き続けることが重要だということなのだろう。
となれば、今の運動時間・量では体重を減らすのには不十分のようだ。
しかし、これ以上自転車を漕いだり走ったりするのはつまらない。
「ならば……」
男が思いついたのはエアロビクスだった。
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ジムにある2つのスタジオ。
そこで行われているエアロビクスダンスは、見ている分にはなかなかに楽しそうだった。
大勢の人々が、音楽とインストラクターの振りにあわせて踊っている。
1レッスンは45分間。
レッスン中は動き通しらしく、しかも全身を使う完全な有酸素運動。
足で自転車を漕ぐだけよりは効果が期待できそうだった。
「だけどなぁ…」
男は悩んだ。
エアロビクスダンスというのはその名のとおり、「踊り」だったからだ。
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リズム感があるとは到底いえず、ましてや相応の年齢のむさくるしい男。
「恥ずかしいし、第一場違いじゃないか?」
確かに、踊っている人たちは皆上手に見えた。
年齢層は様々だったが、女性の方が多いのは間違いが無い。
あの中にいい年の男が入っていったらさぞかし目立つ事だろう。
格好良く踊れるならまだしも、よたよたしていたら更に人目をひくだろう。
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男は数日間悩み続けた。
己のプライドとどう折り合いをつけかうんうん考えていた。
そんな男を決意させたのは、ある日偶然見かけた、男と同じような年齢の男性がスタジオで懸命にエアロビを踊っている姿だった。
正直、その男性は男同様むさくるしかった。
振りも合っていないし、リズムもばらばらだった。
しかし、その姿は決して人から笑われるものではなかった。ただただ一生懸命なのが判るからだ。
男は目から鱗が落ちる思いがした。
「そうだよな、格好気にしてちゃなにも始まらないよな」
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