「エアロビクス・初級クラス」
初級とはいえ、こちらはこれまでの「初めての……」とは異なり本格的な「エアロビクス」のレッスンだった。
基本は先の「初めての」と同様である。
音楽に合わせ、インストラクターの見本と同じステップを踏めば良い。
しかし、そのスピードが違っていた。何より内容が違っていた。
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曲に合わせたステップは数小節毎に次々と変った。
変る前にインストラクターから「次は○○」の指示が出る。レッスン参加者が一斉にステップを変える。
もちろん、男はそれに付いていく事などできはしなかった。
言われた「次は○○」のステップが思い出せない。
思い出しても体に伝わらない。
体に伝わる頃にはテンポに遅れている。
そもそもリズムに乗れていない。
今の男には、レッスン開始前にインストラクターが言ってくれた「踊れなくても大丈夫ですから、脚だけは動かしてくださいね」の言葉を思い出すのが精一杯だった。
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45分のレッスンは、15分毎に水分補給の休憩があった。
しかし時間はせいぜい30秒、しかもその間も足を動かし続けるよう指示されている。
短い時間を使ってグビグビと水を飲む男。
あらかじめ買っておいた500mlのスポーツドリンクは、最後の休憩まで持たなかった。
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今回の45分は長かった。
動き続けたせいもあるだろうが、何がなにやらわからないという気苦労のせいもあったに違いない。
レッスンを終えた時、男はふらふらになっている自分に気が付いた。
「初めての……」でも大量の汗をかいたが、今回はそれを凌駕する量をかいた。
背中はもちろん、髪の毛までびっしょりだった。
そして頭の中には、今日使われた曲がまだがんがんと響いていた。
「それにしても」
ふらつく脚で風呂へと向かいながらと、男は考えた。
踊れる踊れないは別にして、エアロビの効果は凄い。エアロバイク等とは桁が違う運動量だ。
ダイエットとしても非常に有効に違いない。
周りで踊る人には少々迷惑をかけるかもしれないが、もう少し続けてみることにしよう。何より……
通路の自販機で追加のスポーツドリンクを買いながら男はひとりごちた。
「踊れないままってのも悔しいしな……」
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こうして週に2回程度、男はエアロビクスダンスのレッスンを受けるようになった。
そして意外にも、回を重ねるにつれエアロビを楽しく思うようになった。
少しずつだが、ステップの名前と動きを覚えた。
ステップが判ると、インストラクターの指示も判るようになった。
指示がわかると、周りと動きが合うようになった。
動きが合うと、物怖じすることなく大きな動作ができるようになった。
次の動きに入る4拍前から、インストラクターの動きが変ることに男は気づいた。
インストラクターが「こちらを向いている時」は、左右逆の動きをしている事に気づいた。
そして遠慮してフロアの隅のほうにいると、インストラクターの動きが見えにくく踊りにくい事に気づいた。
- 「間違ったところで叱責されるわけではない」
「自分が思うほど、人は他人を見ていない」
「初心者であるほど、インストラクターが見やすい場所で踊るべき」
男は男なりにではあるが、エアロビを楽しむ方法を次第に会得しつつあった。
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