その10~エアロビクスの2|ダイエット物語・半年で減量した男

スポーツドリンク

「エアロビクス・初級クラス」

初級とはいえ、こちらはこれまでの「初めての……」とは異なり本格的な「エアロビクス」のレッスンだった。

基本は先の「初めての」と同様である。
音楽に合わせ、インストラクターの見本と同じステップを踏めば良い。

しかし、そのスピードが違っていた。何より内容が違っていた。

曲に合わせたステップは数小節毎に次々と変った。

変る前にインストラクターから「次は○○」の指示が出る。レッスン参加者が一斉にステップを変える。

もちろん、男はそれに付いていく事などできはしなかった。

言われた「次は○○」のステップが思い出せない。

思い出しても体に伝わらない。

体に伝わる頃にはテンポに遅れている。

そもそもリズムに乗れていない。

今の男には、レッスン開始前にインストラクターが言ってくれた「踊れなくても大丈夫ですから、脚だけは動かしてくださいね」の言葉を思い出すのが精一杯だった。

先のとおり、腕より脚を重視しましょう。ダンスに慣れてきた後でも、初めての曲の時などは手を無視してしまった方が早く覚えられたりするのものです。

45分のレッスンは、15分毎に水分補給の休憩があった。

しかし時間はせいぜい30秒、しかもその間も足を動かし続けるよう指示されている。

短い時間を使ってグビグビと水を飲む男。
あらかじめ買っておいた500mlのスポーツドリンクは、最後の休憩まで持たなかった。

今回の45分は長かった。

動き続けたせいもあるだろうが、何がなにやらわからないという気苦労のせいもあったに違いない。

レッスンを終えた時、男はふらふらになっている自分に気が付いた。

「初めての……」でも大量の汗をかいたが、今回はそれを凌駕する量をかいた。

背中はもちろん、髪の毛までびっしょりだった。

そして頭の中には、今日使われた曲がまだがんがんと響いていた。

「それにしても」

ふらつく脚で風呂へと向かいながらと、男は考えた。

踊れる踊れないは別にして、エアロビの効果は凄い。エアロバイク等とは桁が違う運動量だ。
ダイエットとしても非常に有効に違いない。

周りで踊る人には少々迷惑をかけるかもしれないが、もう少し続けてみることにしよう。何より……

通路の自販機で追加のスポーツドリンクを買いながら男はひとりごちた。

「踊れないままってのも悔しいしな……」

こうして週に2回程度、男はエアロビクスダンスのレッスンを受けるようになった。

そして意外にも、回を重ねるにつれエアロビを楽しく思うようになった。

少しずつだが、ステップの名前と動きを覚えた。

ステップが判ると、インストラクターの指示も判るようになった。

指示がわかると、周りと動きが合うようになった。

動きが合うと、物怖じすることなく大きな動作ができるようになった。

次の動きに入る4拍前から、インストラクターの動きが変ることに男は気づいた。

インストラクターが「こちらを向いている時」は、左右逆の動きをしている事に気づいた。

そして遠慮してフロアの隅のほうにいると、インストラクターの動きが見えにくく踊りにくい事に気づいた。

  • 「間違ったところで叱責されるわけではない」
    「自分が思うほど、人は他人を見ていない」
    「初心者であるほど、インストラクターが見やすい場所で踊るべき」

男は男なりにではあるが、エアロビを楽しむ方法を次第に会得しつつあった。

とにかく後ろからでは前の人の背中しか見えませんからね。初心者を自認するのであれば尚の事前へ出ることをお勧めします。まぁ先頭列は常連に占領されていたりしますけれど。

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