次はトレーニング方法の見直しだ。
男は筋力トレーニングを取り入れることにした。
ー
これまでも筋トレマシンを使う事はあったが、せいぜいお遊び程度。
「体重を落とす」を主目的としていた男にとっては、筋トレより有酸素運動の方が重要に思えたからだ。
だが、体型を整えるのであれば筋肉は必須。そしてそのためには筋トレが必須。
男にとっては意外だったが、この筋肉を増やすことは結果的にはダイエットにも結び付くようだった。
男の理想は「筋肉を増やし、脂肪だけを減らす」だ。
だが調べるほどにこれが難しい事だと判ってくる。
プロのボディビルダーでも、筋肉は脂肪と一緒に付け(太り)後で脂肪を優先的に落とす(痩せる)を繰り返して体型を作るらしい。
ダイエット初心者である男には、食事制限と有酸素運動で筋肉と脂肪の両方が減るのは仕方のない事と諦め、そのうえで「筋トレを加えてできるだけ筋肉の減る量を少なくする」のを目指すのが良さそうだった。
-
いざはじめてみると、エアロビと違い、筋トレは厳しかった。
以前トレーナーに教えてもらったとおり、トレーニングマシンは自分でオモリを設定し、負荷をかけて行う。
これまで「このくらいかな?」と適当に負荷を決めていた男。
しかし筋肉トレーニングは「ぎりぎり10回(10レップと呼ぶらしい)できる重さ」で「2~3セット行う」のが正しい方法らしかった。
つまり、負荷を40kgにセットして腹筋を行い、9レップ10レップでへとへとになればそれが適当な重さ。
10レップできなければ重すぎ。らくらくできるなら軽すぎ。という事だ。
「1回でも10回でも上げられる重さは同じなんじゃ?」
そう思った男の考えは甘かった。
1回目は軽くても、7回くらいしか上げられない重さがあった。
1セット目はできても、1分休憩の後の2セット目にはできないことがあった。
本当にぎりぎりの負荷をかけると、僅か1セット10レップの動きで筋肉は悲鳴をあげ、額からは汗が流れ落ちた。
-
筋トレ中は呼吸も大切だった。
腹式呼吸が基本だったが、それ以外に「力が必要になる時=吐く」「戻す時=吸う」を意識する必要があった。
吐いて上げて吸って下ろして
吐いて上げて吸って下ろして
トレーニングの最後の頃には、男に呼吸に気を使えるほどの余裕は残されていないのが常だった。
-
初めて本格的に筋トレを行った日、あまりの辛さにバテバテになってしまった男。
「これじゃ他の運動ができないじゃないか!」
1日のトレーニングは、「準備運動→筋トレ→有酸素→ストレッチの順で行いましょう!」と言われていた。
- 最初の準備運動(&ストレッチ)で筋肉を揉みほぐしておき、
パワーのあるうちに筋トレを頑張り、
有酸素で効率的に脂肪を燃焼させ、
最後のストレッチで疲れを後に持ち越しにくくする。
……というのがその順番の理由らしい。
しかし、筋トレで体力を使い果たしてしまうと、せっかく楽しくなってきたエアロビで思うように動く事ができない。
これではつまらない。なんとかならないものだろうか?
-
「超回復」と言う言葉を知ったのはこの後だった。
筋トレでぎりぎりまでの負荷をかける理由は「筋肉を一旦破壊するため」であり、それは「後に修復される筋肉は前以上のパワーを持つようになるから」である事を知った。
この「前以上のパワーで復活する」のが「超回復」だった。
ー
超回復させるには、筋肉に休息が必要だった。
筋肉を痛めつけた後、2~3日はトレーニングをせず、ゆっくり育てる必要があるらしい。
しかしそれでは連続してジムへ通う事ができない。どうすれば良いのだろう?
そう、連続してトレーニングするのであれば、日によって鍛える部位を変えれば良いのだった。
「上半身のみトレーニングを行う日」「下半身のみの日」「腹筋と背筋の日」という具合である。
こうすれば、例えば3日間連続してジムに通っても、今日鍛えない部位にとっては休息となる。
これを知った時、男は喜んだ。
鍛える部分をローテーションするということは、疲れる・筋肉痛が出る部分もローテーションされるに違いない。
これなら後にエアロビのレッスンに参加しても、へとへとで動けないという事は無いのではないだろうか?
男の考えは正しかった。
上半身の筋トレ後だとエアロビでの手の動きが緩慢になり、下半身の後は足がふらついたが、それでも今までどおりエアロビクスのレッスンを受け続ける事ができたのである。
ー